小さな、だが美しい光景

 
 F・マリノスの試合前、選手たちがアップに出てくる際に、

サッカーボールを模したソフトボールくらいの大きさのやわらかいボールを

ゴール裏のサポーターに向かって投げてプレゼントするという光景を見ることができた。


 選手たちのボールを取ろうとゴール裏は大騒ぎである。


 ほとんどすべての選手がボールを投げ終わったところで、一人の背の高い選手が

コーナーフラッグの方へ歩み寄っていった。


 彼は一人の少女を見つけると、彼女を指差して「君にあげる」と指をさした。

だが、投げられたボールを受け取るには彼女は幼すぎた。彼はボールを少女の隣にいた母親と

思しき女性にそっと投げた。


 母親からボールを受け取った少女はボールを抱え込んでうれしそうに自分の席についた。


 幼い少女がその選手の名前を知っているのかどうかはわからない。だが、将来、そのボールを

くれた相手が日本代表の中心DFであることを彼女が知れば、それはかけがえのない思い出となるだろう。


 そして、彼女は一生マリノスを応援するだろう。

 
 そう。彼、中澤祐二は日本サッカーに一つ種をまいたのだ。