特別稿1

 川淵会長がテレビで言っていた。

「個の力で劣っている」


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 昨年度、2月26日の横浜国際*1で行われたゼロックススーパーカップから翌年1月15日の大学サッカー選手権決勝まで、75試合の試合をスタジアムで見た。磐田絡みの試合はゴール裏視点で見ることが多いが、それ以外の試合はバックスタンドからの横の視点で見ることが多い。
 私が横から試合を見る際に、注目していること。たくさんあるが、特に注視しているのはDFラインの高さと、相手ボールになったときにプレスを掛け始める位置、プレスの連動性の三点である。関連性のあるこの三つを見れば、そのチームの熟成度、完成度、組織力を測ることができるからである。いわゆる「強い」チームというのはプレスのスタート位置がきちんとしている。相手との力関係や相手の試合運びによって多少の上下はあるものの、強豪チームというのは少なくとも1試合を通じて、「あの辺りからボールを奪うんだな」と感じさせる試合をするものである。

 プレスを掛ける位置が固定されると、プレスの連動性が良くなる。分かりやすく言うと、プレスを掛ける選手に迷いが感じられなくなる。FWがプレスを掛けるポイントを突破されたら、攻撃的MFが掛ける。サイドにボールを振られたら、サイドハーフがプレスを掛ける。こうした一連の作業がよどみなく行われているチームが当然、強い。プレスに行くという動作はかなりの体力を消耗する動きである。ここで迷いが生じると肉体的にも精神的にもダメージが大きくなる。迷いながらプレスを掛けていくチームは体力を消耗しやすい。DFラインに能力の高い選手が揃っていても、終盤に中盤が機能不全に陥り、防戦一方になってしまい、失点してしまう。
 当然ながら、プレスが掛からなくなれば、DFラインは引いて守らざるを得なくなることが多い。こうなってしまうと、失点するか否かは、DFラインの選手達の個人能力によるところが大きくなる。相手のフォワードの能力が低ければよいが、同等やそれ以上だった場合に守りきることは難しくなる。

 さて、興味深いのは、(特にJ2で)下位のチームほど、ディフェンスラインに気を遣っていることが多いことである。これは個人能力の差を組織で埋めなければいけないからだろう。先日見た試合では、試合開始早々に退場者を出した某チームが積極的なDFラインの上げ下げで試合終盤まで相手に得点を許さなかった。前半に唯一許した決定機はDFラインの一人の選手がラインの押し上げの際に一人、集中を欠いた為に相手FWがオフサイドにならず抜け出し、キーパーと1対1になったものだった。結局、後半にセットプレーからそのチームは失点し、負けてしまったのだが、限りある戦力しかないチームの戦い方を見て、感心した。というのも、そのチームのDFラインには期限付き移籍で獲得したばかりの選手がスタメンで使われていたからである。試合前、私はそのことに驚いたし、同時に心配になっていた。本当にチームに合流して間もない彼がDFラインにギャップを作り、失点する可能性が高いと思ったからだ。しかしながら、彼はほぼ完璧にラインの上下動に対応していた。彼の戦術眼の高さもあるのだろうが、チームとしての徹底がそれだけ高いレベルで行われていたということの証明でもある。

 さて、格下の相手がこのような組織的な守備をしてきた場合、皆さんならどのような対応をするだろうか。(この項続く)

*1:日産スタジアムという名前で呼ばれるのはこの年のJリーグ戦開幕からである