ある日の朝


 確かその日は火曜日だったと思うが、先を急ぐので確認はしない。

 早起きするわが家族は、いつもであればとっくに起きて、朝7時からのニュースを見て、

食事を食べているはずだったが、どういうわけか、その日に限って家族全員が寝坊した。


 飯もろくに食わずに家を飛び出した私は通う高校まで全速力で歩き出した(走るほど遅れてはいなかったのだ)。

 高校名に『丘』がつくくらいだから、高校は丘の上にあった。我が家は別の丘の上にあるから、

一度坂を下り、大きな国道を渡り、また坂を上っていくのだ。これを6年間(中学校も同じ丘の上にあった)

繰り返していたのだから、今より15キロ以上やせていたのも当然だ。


 坂を下り、丘を中腹まで上ったところで、前方に小学校からの友人がいるのが目に入った。

彼は会うなり私に言った。


「今日、大阪のほうで地震があったよねえ」


 あったよねえ、と言われてもテレビも見ていない私がそんなことを知るはずはない。

そもそも、地震などこの国には有り余るほどある。

 私はまったく気のない返事を返した。

「へえ、そうなの」


 会話終了である。


 これより先は坂が相当に急なので喋りながら歩くと、学校に着くころにはえらいことになる。

 一年前まで通っていた中学校の脇をとおり、学園通りと呼ばれる丘の頂上の通りに出ると、

高校の正門がある。

 私と彼は簡単に挨拶をしてそこで別れた(クラスが違うのだ)。


 ホームルームが始まる3分前に教室に入った。

 
 2月初旬にある合唱コンクールに向けて、女子が衣装を作っていた気もするし、

「今日、朝練だったのに、どうしたの?」と誰かから声をかけられたような気もするが、

よく覚えていない。それよりも、始業のチャイムが鳴り、教室に入ってきた担任から

出た言葉の方が強烈に印象に残っているからである。


「今朝の、神戸の地震、テレビで見た?」


(明日に続く)