代表選考から読み解く〜伊野波編〜

 どうして伊野波が選ばれたのかを考えることで、ワールドカップでの戦い方を読み解く解きたいと思って、長めの文書を書いてみた。

 伊野波はFC東京に入団当時はボランチ、その後サイドをやったり、鹿島に行ってからはセンターバックだったり、クロアチアでも変わらず、ボランチとCBをいったりきたり、神戸でもボランチだったりセンターだったり。磐田に入ってからはセンターバックを一貫してやっている。

 代表でも状況は変わらず、右サイドバックだったり、3バックでCBをやったりしている。ボランチとしては出ていなかった記憶があるが、やればできるだろう。

 つまり、ここまで長々と書いてきたが、このユーティリティ性が彼が代表に残った一つの理由だろう

 問題は競合が誰だったのかということだ。

 代表発表会見で、こんなやりとりがあった。

質問「選考したときボランチで悩んだそうだが細貝をはずして青山を選んだが」

監督「決断は難しくてボランチを4,5枚にするか悩んだが、青山が入って、細貝がはずれたのではなくて、どこまでユーティリティーに使えるかを判断した」

 この質問とその答えは表面的に見れば噛み合っていない。青山と細貝を比較した場合、ユーティリティに使えるのは圧倒的に細貝だろう。青山も能力があるので、場合によってはボランチやCBもできるかもしれないが、ドイツで実際にボランチ、CB、SBと使われて結果を残しているのは細貝だ。つまり、この監督の答えを紐解けばこうなる。

「決断は難しくてボランチを4,5枚にするか悩んだが(結果として所属チームで専門でやっている選手は4人になった)、青山が入って、細貝がはずれたのではなくて、どこまで(青山ではなく、他の選手を)ユーティリティーに使えるかを判断した」

 なぜ、ボランチを4枚と5枚で悩んだか。言うまでもなく、このチームでは絶対的な長谷部・内田・吉田の怪我である。ブンデスリーガ最終節でフル出場した長谷部は、吉田と内田に比べれば、怪我の回復は早かったと思われるが、怪我から復帰した選手がトレーニング中や試合中にすぐ怪我をしてしまうのはよくあるケースだ。
だからこそ、ザックは迷ったのだ。普通であれば、同じポジションに1名のバックアップが入れば事足りるが、長谷部の怪我のために、1名多くしようとしたのだ。また、同じことを右サイドバックセンターバックでも考えなければいけない。

つまり状況はこうだ

1 ボランチは4名ないし5名連れて行きたい。長谷部の状況を考えると5名欲しい
2 右サイドバックも2名ないしは3名連れて行きたい。内田の状況を考えると3名欲しい
3 センターバックは今野と吉田で動かしたくない。*1よって、それぞれのバックアッパーがいればいい。だが、吉田の状態が気になる。

この懸案の3つのポジション別に候補を見るとこうなる。

CB   吉田、今野*2、森重、塩谷、水本、槙野、山下、塩谷、鈴木大、昌子、細貝、伊野波
右SB  内田、酒井高徳酒井宏樹、今井、鈴木大、細貝、伊野波
ボランチ 長谷部、遠藤、青山、山口、高橋秀、長谷川ア、柴崎、細貝、伊野波、

 3つのポジションをそれなりのレベルでこなせるのは細貝と伊野波しかいない。国内組だけを集めた合宿でCBとSB陣に異なるポジションをさせたというのだから、内田と吉田の状態は楽観できるものではないのだろう。*3

 ではどちらを選ぶか、これは怪我の3人の状態にかなり左右されたのだと思う。最も状態が良いのは間違いなく長谷部であろう。このことが二人の選考に大きな影響を与えたことは間違いない。つまり、ボランチよりもセンターバックもしくは右サイドバックのほうが緊急性が高いということだ。よって、本職がボランチの細貝は外れて、伊野波が選ばれた。こんなところではないだろうか。

 それでもまだ細貝にはチャンスが残っている。ボランチとしての細貝、青山、山口の比較を考えられるからだ。

 まず、この3名のうち山口の2013年の代表でのパフォーマンスは突出していた。よって当確になった。そして細貝と青山。これは遠藤が鍵になる。ボールを配給する遠藤の調子がイマイチ。そこで青山という選択になったのではないだろうか。もし、長谷部が完全にダメで遠藤が好調だったら細貝という選択もあったかもしれない。

 このように3つのポジションだけをとってみても様々な状況が起こっている。表に出ていることだけでもこれだけあるのだから、他に未だあるのだろう(選手の性格やベンチでの取り組み…etc.)。

 「あいつイラネ」とか「なんで?」なんてことは軽々しく口にしたくはないものである。

*1:これは怪我にかぎらずすべての監督がそうだろう

*2:今野はどのポジションもできるであろうが、試合に出場できる状態ならCBとしてしか使われないので、右サイドバックボランチには含めていない

*3:ザックは会見で「水が半分しか入っていないコップの例えをしていたが、それは言葉通り50%の確率で出場できない選手がいることを表しているのではないだろうか。何しろ二人は実戦復帰していないのだから